7月になり暑さが厳しい日も多くなってきました。
開業当初、いろいろ医療の内容のブログを書こう!、と思っていたのですがあまり書けないまま時間が過ぎてしまいました。
今回はヘリコバクター・ピロリ菌(以下、ピロリ菌)の検査のなかで血清ヘリコバクター・ピロリ抗体について書いてみたいと思います。
まとめを先に書くと、
・抗体値が低い方の中には胃粘膜の萎縮が進んでいて胃がんのリスクが高い方がいる。
・抗体値が正常値より高い方の中にはピロリ菌には未感染の方もいる、特に近年測定キットが変わった施設・検診内容が多く以前と比べて抗体値が正常上限より高く出てしまう人が増えている。
・なので抗体値だけでは感染しているか判定するのは危険である。
・ピロリ菌の検査・治療は胃内視鏡検査を行っていることが必要条件であり、内視鏡検査を受けない場合の検査・治療・診察代などはすべて自費診療となる。
ということになります。
ご興味のある方は少し長くなりますがお付き合いください。
ピロリ菌の検査は当院ホームページでも取り上げています(ピロリ菌の検査・除菌なら|阪神御影駅前のきのしたクリニック (kkinoshita-clinic.com))。
具体的には、内視鏡を用いない方法として、血清抗体、便中抗原、尿素呼気試験、内視鏡を用いる方法をして迅速ウレアーゼ試験、培養法、検鏡法があります。当院ホームページに取り上げていない方法としては、尿中抗体法があります。また近年可能となった方法にピロリ菌の感染状況と陽性であったときに除菌治療で用いる抗生物質クラリスロマイシンに対する効き具合(感受性)を調べることができるスマートジーンH.pylori Gという測定器を用いた方法があります(胃液を用いるため胃内視鏡検査が必要です。ただし当院では現時点では行うことができません)。
保険診療でピロリ菌の検査や除菌治療を行うためには胃内視鏡検査を行うことが必要条件となっています。ピロリ菌感染に伴う慢性胃炎により胃粘膜の萎縮性変化が進行し胃がんのリスクが高くなるため、ピロリ菌の除菌を行うにあたり胃がんの有無を見ておくことが重要で、その機会を担保する目的があります。
一方で、検診などでよく行われているのが、血清抗体を用いた方法です。ピロリ菌に感染すると胃粘膜において免疫反応が起こり、その結果抗体が産生され血液内のピロリ菌に対する抗体値が上昇します。したがって、血清ピロリ抗体を調べることで、ピロリ菌に感染しているかどうかが「ある程度」わかります。血清ピロリ抗体価は10U/mLを基準として、10未満が陰性、10以上が陽性と判定されていました。しかし3~9U/mLの「陰性高値」と範囲の人の中にはピロリ菌に感染歴のない「未感染」、現時点で感染がある「現感染」、過去に感染していた「既感染」の方が混在しており、3U/mL未満の人と比べて胃がんのリスクが高いと考えられ、陰性と陽性の基準を3U/mLで分けるように現在は変更されています。
しかし陰性とされる3U/mL未満の方には、過去にピロリ菌感染歴がなく抗体価が上がらない方と、過去にはピロリ菌がいたが萎縮性胃炎が進行してピロリ菌が胃に棲めなくなった結果抗体価が下がってしまった方がいます。前者の未感染の場合は胃がんのリスクは高くないですが、後者の既感染で萎縮性胃炎が進んでしまった場合は胃がんのリスクが逆に高くなってしまいます。ちなみに血液内のペプシノーゲン(PG)という物質のPGI値や、PGI/PGIIの比から胃粘膜萎縮の程度が推測され、血清抗体とペプシノーゲンの情報を用いて胃がんのリスクを分類する方法がABC検診であり検診などで活用されています。
さて、ここ最近、抗体価が10U/mL以上で「ピロリ菌陽性」を指摘され受診される方に胃内視鏡検査や他の方法でピロリ菌感染の確認を行ったところ、一部の方でピロリ菌感染がなく、慢性胃炎の所見もみられないということが以前よりは多いように感じています。もしもこのような方に抗体価だけで判断して除菌治療を行うことは、本来する必要がない治療をしてしまうことになってしまいます。原因としては、血清ピロリ抗体の測定キットとして、以前よく使われたキット( EIA 法・ E プレート ’ 栄研 ’ H. ピロリ抗体 II (Eiken EIA)ではなく、2021 年 4 月以降多くの施設で別のキット(ラッテクス法の・H. ピロリ – ラテックス「生研」(Denka Lx))がよく使用されるようになったことで、抗体価の数値が高めに出てしまうことが考えられています。
このように、血清ピロリ抗体価が高くても低くても、抗体価の数値だけではピロリ菌感染の状態を正しく評価することが難しいのです。日本ヘリコバクター学会からも、血清抗体による安易なピロリ菌感染診断を行わないよう注意喚起されています(血清抗体法を用いたヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)感染診断に関する注意喚起(2022年版)|胃癌リスク評価に資する抗体法適正化委員会|各種委員会|日本ヘリコバクター学会 (jshr.jp))。抗体が陽性と判定された場合、専門医にご相談いただいたうえで内視鏡検査を受けられ、抗体検査以外の検査で確実な診断を行っていただき、適切に除菌治療の要否を判定してください。抗体価が低い場合も以前の感染があるかたはかえって胃がんのリスクが高いこともあるため、気になる症状や問題があれば、一度は専門医と相談いただき適切に内視鏡検査などを受けていただくことをお勧めいたします。